2010年6月4日金曜日

おはなし


『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。』

雪国の、この冒頭が好きだ。
小説はあんまり読まないけれど文学作品で冒頭に惹かれるものはたくさんある。
そういうフレーズはとても魅力的。頭にぴったりと入ってきて忘れたりしない。

『吾輩は猫である。名前はまだない。』
『親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。』
夏目漱石のさらっとしてるけどドシンと構えた書き出しも好き。

あと何か好きな冒頭文はあったかしら。

そういえば父が定年したら小説を書くと言い出したことがあった。
あたしは笑ってしまった。

だってあのロマンに欠ける父が、
日常的過ぎる父が、
私の好きな小説の冒頭文みたいな文学表現をするってことでしょ。
からだがかゆくなりそうだ。

「かよこも書こうよ、小説。」とお誘いにあずかったのだが。
私はにやにやしながら「考えとくわ」とだけ言っておいた。